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help リーダーに追加 RSS REVIEW 『きみの友だち』

<<   作成日時 : 2008/05/29 21:55   >>

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「みんななんて信じない。本当に大切な人といればいい」。恵美は中原にこう言う。
彼らは、思うに任せない人生を、
しかししっかと前を向いて生きている。
“友だち”と一括りにされた友情を疑うこともなく
“つるむ”同級生たちから離れて、
ささやかだがかけがえのない愛を不器用に慈しみ、
たとえその相手がこの世から去っても、
その想い出を大切に育み続ける。
恵美は交通事故に遭うまでは、
当たり前のように屈託のない同級生たちの輪の中にいたはずだ。
恵美は由香と一緒にいる理由を問われて、「歩く速度が同じだから」と笑うが、
事故前と違って自分を置いて軽々と先を行く友だちに追いつける理由が、もはや彼女にはない。
こうして生まれる“私とは違う”という眼の疎外感に、プライドの高い恵美が抱くのは怒りだ。
そんな恵美のぶっきらぼうな心に、由香はさりげなく寄り添った。
入院していたときの習慣を引きずって、クラスメイトのお誕生日会をカレンダーに書き込んだ由香は、
ただひとり、恵美の誕生日を祝う。その“天然ボケ”のような優しさに、
ささくれ立った恵美の心が瞬間、癒されたに違いない。
雨の朝、玄関を開けた恵美を待つのは、きっと父のものだろう、小学生の身体には不釣あいな
“家にある一番大きな”こうもり傘をさした由香だ。交通事故で足を負傷した原因の半分は由香にあると、
腹立ち紛れの八つ当たりをした恵美の悔恨に、由香の無私がやんわりとしみこむ。
そうして恵美は、どうしてできないのと怒鳴るだけだった縄跳びの縄回しのペースを、
少しばかり由香に合わせることで、綺麗な円を描き始める。「縄跳び、初めてだったよね」。
恵美のその言葉に、今度は由香の心が微笑む。
そして、恵美は由香によって、それまで気づかなかった周囲の光景が見え始める。稀有な友情の始まりだ。
生まれながらの腎臓の病を抱える由香は、入院で疲れたとき、
何度となく病院の「お友達の部屋」に飾られた“もこもこ雲”に慰められてきたと恵美に話す。
そして、由香はハナに言う。「恵美は“もこもこ雲”だ」と。
恵美がなぜ今、フリースクールの子供たちの写真を撮りたいと思ったのか、それは由香に言われたように、
社会に疎外感を抱く子供たちにとっても“もこもこ雲”になろうとしたのだろう。
生徒たちから“もこちゃん先生”と呼ばれる恵美は、そうすることで由香との想い出を忘れることなく、
いっそう深めようとしたのかもしれない。恵美が“もこもこ雲”に相応しいエピソードがひとつ。
ぶっきらぼうで、愛想もなく、感情を表に出さない恵美は、サッカー試合のビデオテープに
豆粒のように映っている佐藤に、「チームメートの中で一番、喜んでいた」とその存在を認め、
弟ブンに手渡すつもりだったヴァレンタインのチョコレートをプレゼントする。
「男性に贈る初めてのチョコ」と言葉を添えて。
三好から佐藤へとエピソードを繋ぐ、このコンプレックスの塊のような男子中学生のパノラマは圧巻だ。
小学校時代の“親友”ブンとの主導権がいつしか入れ替わり、ブンへの栄誉を
劣等生の自分の自慢へと昇華することで、思い出を現実に繋ぎ留めようとする三好は、
そんな心境に至るまでの葛藤の夜を、幾晩過ごしたことだろう。
そうして、かつての親友を一歩離れた場所から応援する黒子の立場に徹する。
そのことを話したのは、偶然公園で呼び止められた恵美が初めてだったに違いない。
ブンを“シメる”という先輩からの電話を受け取った三好は、居ても立ってもいられなくなって、自転車を駆る。
しかし、乱闘の現場に直面するや、肩にかけたバットと思しき武器の存在を忘れ、
平謝りに謝った末に、自分の顔をパンチして、先輩たちを唖然とさせる。
優等生のブンは、そんな三好の気持ちを知って知らぬふりをしているのだろう。
高校生になっても、かつての愛称“ブンちゃん”と呼ばれることに、
「“ちゃん”付けはやめろ」といいながらも、それはブンの照れ隠しのようにも思える。
かつて「いつまでも親友だ」、そう言ったこともブンは覚えているはずだ。
もしかしたら、三好の好意が重荷になっているのかもしれない。
誰もがいい奴だ。けれど、相手とうまく距離を取れずにもがく愛すべき少年たち。
後輩にレギュラーを奪われた佐藤は、部活仲間から“バカにされている”と被害妄想気味に、ブンを苛める。
それを目撃した女子学生から「最低」と吐き捨てられても、誰より彼自身がその行為の浅薄さを知っている。
それでもやりきれない憤懣の捌け口は見つからない。
琴乃に求められるまま、ブンの映ったビデオテープを“速攻”で手渡したヴァレンタインの日、
諦観をにじませつつ、素知らぬ顔で机の奥を探る佐藤がいじらしい。
そして、先輩の意地を見せようと力んだ挙句の事故。大事に至らなくて良かった。
その思いが彼を正気にさせる。捻挫と診断されたブンの笑顔に、
「これが試合ならイエローカードにもならないぞ」といつものような憎まれ口を叩く佐藤は、
やはりビデオテープを見た恵美の一言に存在を認められた嬉しさを噛み締めたのだろう。
佐藤役の柄本時生は、自室でテレビゲームをしたり、病院での恵美とブンのやりとりなど、
後姿の演技に凄まじい少年の孤独をみなぎらせる。
そして、“コーチ”としてブンに幾度となくボールをスルーされようと、そのたびに懸命にダッシュし、
執拗にマークする、その長回しシーンに万年補欠のサッカー小僧の意地を注ぎ込むのだ。
空に雲がなければのっぺらぼうだ。時に雨を降らし、時にカンカン照りの夏の太陽を遮ってくれる。
人生もいつも青空というわけではない。けれど、そんな試練が人生を豊かにする。
由香は、「思い出だけ残して、先に死んじゃったらごめん」と恵美に言う。
そういう少女だからこそ、頑なだった恵美の心にスッと入り込んできたのだ。
由香は病院で幾つもの死を体験している。恵美に同じ思いをさせるのが辛くてたまらないのだろう。
そうして嫌いになってもらいたくない。
どうして、恵美と由香はこれほど密な友情を築いたのだろう。
ふたりの性格から考えても、疎外者同士の哀れみや同情のようなものでは、決してない。
由香はハナに、「むしろ気は合わないし、怒りっぽい」と恵美のことを説明する。
友情というのは、そんなものなのだ。言葉で説明できるほど、簡単で薄っぺらいものではない。
だから、恵美はこれみよがしな言葉を発しない。この物語の青春たちは、みんなそうだ。
そう、恵美にとっては由香こそが“もこもこ雲”だったのだ。
5年間の由香との思い出は、15年の恵美の人生の3分の1だ。
けれど、恵美が10年、20年と、生をまっとうしていくうちに、その占める割合は次第に低くなっていく。
けれど、その密度は時の経過とともに左右され、薄れていくわけではない。
恵美は、由香の写真を撮らなかったことを後悔するが、由香のいなくなった病室のベッドに横たわったとき、
天井に自分の描いた“もこもこ雲”の水彩画が貼られていることを知る。
そのときの恵美の号泣が、ふたりの関係を永遠のものにするのだ。
そして由香の両親も、恵美の成長を我が子と重ねあわせるように見守り続けるのだろう。
初めて、恵美が婚約者として中原を由香の両親に紹介する、
そのときの“花嫁の両親”さながらの慌てふためきが、娘を亡くした父と母の心を一瞬、癒すはずだ。
恵美役の石橋杏奈は、14歳と20歳のふたつの時代を生きる恵美に自然体で挑み、
由香のいなくなった病床の天井に飾られた“もこもこ雲”に号泣するとき、
恵美を生きたことが伝わってくる。恵美の心の痛みを、静かな感情のさざなみのように表現し、
ぶっきらぼうな恵美役が、新人の演技の硬質とぴったりと嵌ったというべきかもしれない。
と同時に、あの中学生が成人となった実感を観る者に与え、それは子供時代とも違和感がない。
中原に寄せる素っ気ない愛情のうつろいも、彼女が“素顔美女”ゆえに微笑ましい。
当初は、「みんなのための見世物じゃないから」と中原を拒絶した恵美が、
彼を車でフリースクールから駅まで送るようになる説得力が生まれる。
佐藤以来、中原にヴァレンタイン・チョコをプレゼントした後の頬のキスに、
それまで抑制されていた恵美のチャーミングがこぼれる。
由香役の北浦愛は、素朴な佇まいの中に病と闘う少女の健気を込め、
中原役の福士誠治は狂言回し的存在を、思いがけない男性性を発揮して物語を引っ張ってゆく。
恵美の頑なな心を時に揺さぶり、溶かしてゆく好ましい包容力は、
フリーライター役の面目躍如といったところか。ハナ役の吉里由里子の茶目っ気はこの物語の華であり、
三好役の木村耕二の体当たりのぎこちない純情に心揺さぶられる。柄本は前述の通り、
この若手俳優のアンサンブルがヴィヴィッドな現代青春像にリアリティあふれる生命力を注ぎ込んだ。
そんな主人公たちから距離を置くように、時にハンディキャメラのブレも
彼らの心の揺れを反映させたかのドキュメンタリータッチで切り取った廣木隆一監督の演出は、
それゆえに恵美の撮影する写真さながらフォトジェニックな瞬間を切り取る。
校庭に放り出されたボールなどをひとつひとつ片付けながら、訥々と恵美が会話していくうちに、
徐々に中原との関係が心身ともに接近していく長回し映像が見事だ。
じんわりと彼らが私たちの胸に忍び込んでくるようだ。そうして銀幕を超えて一体化する。

●DATA
2008年日本映画
監督=廣木隆一
出演=石橋杏奈、北浦愛、吉高由里子、福士誠治
配給=ビターズ・エンド
2008年7月下旬より新宿武蔵野館にてロードショー

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