REVIEW 「Passion 愛の旅」 Part.1

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東京宝塚劇場 2008年4月4日15:30~初日
          2008年5月15日18:30~

「Passion 愛の旅」
今回の宙組公演は、芝居、ショウともに、
専科、轟悠の特別出演が新風を吹き込んだように思えた。
従来の宙組公演とは多少なりとも趣の異なる作風を、
芯に据えられた轟に引っ張られるように、
組子たちの一体感の相乗効果と相まって、
スリリングな新境地を疾走したという印象だ。
そのためには、まず脚本がしっかりしていなくてはならない.
作、演出の酒井澄夫は、轟の持つ
アダルトなムードを前面に押し出しながら、
そこに大和悠河率いる宙組の若々しさを渾然一体とさせた
重層的なレヴューを生み出した。男役の黒燕尾から始まり、
哀愁のシャンソンで締めくくるオーソドックスな構成ながら、
随所にモダンな印象を与えるのは、そのせいだろう。
内容的には、“愛の旅”と銘打っているように、中近東ムードの曲調から、ブラジルのラテン、
そしてフランスのシャンソンなど世界を転じる総花的な構成ではあるものの、
各シーンが見応えあるものになっているので、スピーディなヴァラエティを実感させる、あっという間の55分だった。

まずオープニングでは、吉田優子の重厚な主題歌「Passion」とともに、
階段上で轟悠がミラーボールを携えた娘役、大海亜呼、舞姫あゆみを従えて登場。
黒地に白のタキシード姿の轟にスポットライトが当たり、まさに白銀の世界。
一方、階段下では黒燕尾の男役に真紅のスポットライトの群舞の対照が、まず視覚的なインパクト大だ。
そのまま、銀橋を上手から下手へ移動する轟の舞台上では、
芝居での金髪がひと際目を惹く天羽珠紀のほか、美郷真也、寿つかさ、そして珠洲春希と、
ヴェテラン陣がセンターで健闘、溌剌としたダンスを披露しているのが頼もしい。
大和悠河は轟から場を引き継ぐようにせり上がり、対照的な黒地に白のタキシードで登場。
蘭寿とむ、北翔海莉らスター男役を引き連れての華やかな群舞が若々しい息吹きを吹き込む。
大和が下手から上手へ主題歌を唄いながら銀橋を渡り、
娘役を引き連れて登場する美羽あさひが付き従いデュエット。
階段上では蘭寿、北翔が順次、主題歌を唄い継ぎ、
その後、蘭寿は花影アリスと、北翔は和音美桜とペアを組み、プロローグを盛りあげる。
北翔の美声が特徴的に耳に残る。蘭寿と北翔は濃い赤を基調としたパッションな衣裳。
そこに早変わりの轟が加わっての総踊りでは、娘役のコーラスが清々しい。
宝塚らしいレヴューの醍醐味が濃厚に匂い立つ、シックで妖艶なプロローグだ。

一瞬の暗転の後、第4場「終わりなき愛の旅」はオープニングの興奮の余韻に穏やかに浸る小場面。
舞台上手に残った轟は「愛を求めて旅をする」のモノローグとともに銀橋に移り、
轟の唄う「Tornero」に音乃いづみと和音美桜がコーラスで華を添える。

第5場「大空へ」は、幕が開くや羽をイメージしたセットが斜めに置かれただけの広い舞台。
純白の士官服の、大和率いる蘭寿、北翔らの笑顔が、若さの清潔感を強調するように晴れやかに映える。
飛行隊の帽子を投げ上げと、玉麻尚一作曲のメロディがおもむろに青春の昂奮に転じ、
空の青年たちと娘たちが所狭しと跳ね回る。
御織ゆみ乃の振付には組体操を彷彿させる“体育会系”の溌剌さがあり、舞台に躍動感がみなぎる。
せり上がった大舞台での大和と美羽のデュエットが伸びやかで、
ここでは、蘭寿が大海と、北翔が花影と組む。
蘭寿と北翔は『愛と青春の旅だち』や『トップガン』を想起させる80年代風ロックを踊りに踊りづめ、
ジェット機の音が空の青年たちの未来への飛翔を暗示する。
とはいえ、つい30分ほど前まで上演されていた芝居の中で特攻隊のレクイエムがあっただけに、
希望を胸に“愛の旅だち”をする若き士官の姿に複雑な思いが交錯したのは、私のつまらない感傷だろうか。

第6場「砂漠の薔薇」では“ダッタン人の踊り”こと「ストレンジャー・イン・パラダイス」とともに、
帽子に赤と青の羽をつけ、オリエンタル風のエキゾチックな衣裳に身を包んだ轟=ストレンジャーが、
美郷扮する道化師の握る一輪の赤い花に誘われるように、
シルクスクリーン越しに見つめるのは、中近東のハーレム。
道化に誘われるまま、バラを手渡されたストレンジャーは、たちまち別世界へ。
青づくめの衣裳の妖艶なオリエンタルの男に翻弄され、スーフィーの男に担ぎあげられる。
KAZUMI-BOYによる振付はめまぐるしく場面を展開させ、片時も目を離せない激しさだ。
その群舞でも、オリエンタルの男に扮した宙組の長身メンバー、悠未ひろ、十輝いりす、七帆ひかるは
スーフィーの山高帽より頭ひとつ大きいのではと思えるほど、存在感にインパクトがある。
そして、和音の妖艶な歌声とともに姿を見せるのは、凪七瑠海扮するオダリズク。
「アラビアン・ワルツ」の小気味良いメロディとともに、ピンクの衣裳に身を包んだ凪七は
小悪魔風にストレンジャーを誘惑し、轟は凪七を豪快にリフトする。
和音に加え、鈴奈沙也、彩苑ゆき、音乃いづみのハーレムの女のコーラスが喧騒を煽りたて、
山高帽を被ったスーフィーの男の変わり燕尾の裾の広がりが
ユニークな視覚効果を生むダンスは過激さを増す、独創的で官能的なシークエンスだ。
熱狂の果て、ふと現実に目覚めた轟の掌で、枯れた花の花弁がポロポロとこぼれる。
シルクスクリーンに向こうには、鮮烈な赤い花をかざした道化の足許にかしずくオダリズクが妖艶に微笑む。
そんな夢幻の世界を締めくくるのが、和音の透明感あるスキャットだ。
凪七はトップ娘役、陽月華の代役だが、男役らしい大胆なアプローチで轟を誘惑、
決して小柄ではない凪七と轟のリフトは迫力満点だ。
と同時に、狂騒が瞬時にして静寂の世界となるその落差の名残りを、
赤い花に象徴させた酒井演出は、デリケートで美しい。(続く)




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