REVIEW 「第32回東京国際映画祭」アジアの未来 『50人の宣誓』

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裁判所に向かう一族郎党50人を乗せたバスは、彼らの生命を司る運命共同体そのものだ。健常者のみならず中には障害を抱えた者も同乗し、ひとつのコミュニティの様相も孕み、その一方で妹を殺されたラズィエが扇動する、加害者の死刑に向けて“ひた走る”狂信者に導かれた原理主義の一行にも映る。とはいえ、一族の中に3年前に殺された犬の恨みに抱え続ける叔父たちの存在のように、必ずしも一枚岩とは言えず、“目的地”までの道のりは遠く長い。

山あいの深い霧の中から、ヘッドライトとともに次第に姿を現す乗り合いバスは、その時点で不穏の気配が漂っている。バスの車内はカオスさながらの乱痴気騒ぎで歌えや踊れやのお祭り騒ぎかと思いきや、休憩に立ち止まった食堂で裁判のリハーサルを行うなど、誰もが思う気儘にてんでばらばらだ。さらに、裁判の宣誓のためにラズィエが仮出所させた妹の恋人が隠れて乗っていたり、誰もが胸に秘密を抱えている。

バスの車窓から見える、会話の聞こえない沈黙のシーンで沸騰する怒りの表現が凄まじい。自らの携帯電話を投げ捨てて、破壊してしまう、バスの乗客の中にはそんな激昂者も含まれている。そして何よりラズィエにとっての“真実”とは、脅迫めいたプレッシャーを伴って、時限爆弾が爆発するように、バスは貯水池へと突入する。

バスのトランクルームに隠れた男を救出するためのもがき、息絶え絶えの奮闘は、ラズィエの嘘をも瓦解することになる。大山鳴動して鼠一匹、その人にとっての真実を狂信することの徒労と虚しさが事件の残像となって銀幕に漂う。オープニングの宣誓者たちのモンタージュは、現実から乖離したラズィエにとっての理想の具現化だったのかもしれない。


●DATA
The Oath
2019年韓国映画
監督=モーセン・タナバンデ
出演=マーナズ・アフシャル、サイド・アガカニ、ハサン・プールシラズィ

2019年10月28日~11月5日開催

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