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zoom RSS REVIEW 『ボンジュール、アン』

<<   作成日時 : 2017/07/06 01:23   >>

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人生の“寄り道”の何と愉しく胸騒がせることか。その旅に「彼との旅は一生の思い出よ」と称賛される“ガイド”の同行があれば最高だ。

それまでアンは夫の“影”に徹していた。カンヌでのセレブ写真も、夫妻で被写体に収まっても彼女はファインダーの外だ。分刻みのスケジュールと携帯電話に追われる夫に振り回されながらも、彼に従順に付き従うことに格別、不満も抱かず、当たり前のことと受け流していたのだろう。

そんなアンがジャックとの旅で南仏の眩しい陽光に照らされ、美しく輝く。若さがもてはやされるカンヌでは見向きもされなかったアンの成熟した女性的な魅力が、年齢に対して偏見とは無縁のフランス男たちから欲望の眼差しを向けられ、忘れかけていたときめきを甦らせる。

「アメリカ人は何でも理由をつける」。そうジャックに説得されるうちに、当初は夫の仕事仲間との旅に緊張していたアンもリラックスして、健啖家のジャックの勧めるまま、ワインと美食を堪能し、歴史的な史跡をめぐり、大好きなファブリックに触れ、そして美をとらえる写真家としての眼を養ってゆく。もし、飛行機の旅だったら、アンはそんな貴重な歓びをついぞ知ることもなく、アメリカに帰国するところだったのだ。時間の短縮という合理性と引き変えに、人生を楽しむ代償の何と大きかったことか。

そんなアンに代表されるアメリカ人と対照するように、ジャックの何とおおらかに人生を楽しんでいることか。“港々に女あり”さながら行きつけの場所それぞれに女性の影がちらつき、ギャンブルと背中合わせの映画製作における金回りの危うさも旅の最中にも携帯電話の会話越しにつきまとう。しかしそんな清濁併せ持ったジャックがこれまで享受した実り豊かな人生経験が、アンにとっても生きる歓びの共有となるのだ。

「大抵の人間は目の前の幸福に気づかない」。車のエンストを口実に草叢でピクニックとは、アンにとってそれまで考えられなかっただろう。けれどそこで「草上の昼食」を気取って意気投合するのは、彼らの感受性が一致しているからだろう。そしてエンストを修理するのは、アンの役目だ。フランス男性は夢見がちで、アメリカ女性は実務的。そんな対照も愉快だ。


そんな心からの笑顔が、ふとした不安を拭う特効薬となるのだ。ジャックは言う。「良い食事は魂の救済になる」。アンの人生に一生つきまとうであろう過去のトラウマも、美食に舌鼓を打ち、ワイングラスを傾け、キャメラのファインダーを覗くとき、束の間、忘れられる。

クラシックなプジョーがワンボックスのレンタカーに取って代わられ、ふたりの旅から遊び心が奪われるように、車がパリに進むにつれ、彼らはそんな非日常の型破りが薄れ、平静を取り戻す。「アメリカ人は禁欲的で罪悪感に囚われやすい」。ジャックの“一押し”も駐車違反の警告音に邪魔される有様だ。

アンにとってジャックはアヴァンチュールではなく、ときめきだ。その微妙な差異をエレノアは女性らしい感受性で繊細に触れる。サンフランシスコで再会するアンもまた、大人の成熟の裡にチョコレートの甘味に頬を緩める少女のような可愛らしさを覗かせるに違いない。それにしても、パリのアパルトマンの管理人役にオーロール・クレマンとは贅沢な配役!


●DATA
Paris Can Wait
2016年アメリカ=日本映画
監督=エレノア・コッポラ
出演=ダイアン・レイン、アルノー・ヴィアール、アレック・ボールドウィン
配給=東北新社/STAR CHANNEL
2017年7月7日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー


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