ENTER THE REVIEW

アクセスカウンタ

zoom RSS REVIEW 『少女ファニーと運命の旅』

<<   作成日時 : 2017/07/01 21:46   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 0

画像
第二次世界大戦下、ユダヤ人の子供たちは我が身に迫るナチスの脅威をどれほど理解していたのだろう。両親にとっては、我が子との永遠の別れを覚悟した支援組織での“避難生活”も、少年少女にはひとときの“林間学校”とそう変わらない気安さは、彼らが家族へ送った手紙からも窺える。それゆえ、最初の避難所からマダム・フォーマンの屋敷に辿り着いたとき、その女主人の「小さな子供がいるなんて」との嘆きの声にファニーは思いがけない衝撃を受けたのだ。

幼い妹エリカ、ジョルジェットと避難生活を送るファニーにとって、マダム・フォーマンのその厳めしさに、初めて抜き差しならない現状を体感したに違いない。三人姉妹の長女といえども、ファニーもまだ子供だ。夜ごと、ベッドのシーツに潜り込み、愛用のキャメラのファインダーを覗き込めば、5人家族の幸福だった日々が鮮やかに甦る、そのなんともみずみずしい少女の感受性!

そう、マダム・フォーマンは決して冷淡なのではない。ドイツ占領下のフランスにおいて、ユダヤ人の子供たちを匿うことは対独活動を意味する。たとえ子供といえども、生命を失う危険性は大人と変わらない。その重大な責任を認識しているからこそ、彼女は子供たちに対して見せかけの優しさを切り捨てるのだ。

お伽噺に夢中のジョルジェットはファニーに尋ねる。「狼はいるの?」。親独政権下で“密告”の眼はどこに潜んでいるか判らない。その“狼”が牙を剥いたとき、子供たちだけでスイスへ国境越えしなくてはならなくなる、その旅のリーダーにマダム・フォーマンはファニーを指名する。「あなたは頑固だからやり遂げられる」。そして、不安に慄く彼女にこう言い添える。「怖いときは平気なふりを」。まさに子供たちに対するマダム・フォーマンの冷静な態度は、この実践だったのだ。

もちろん中には、過酷な現実に対して悲観的なヴィクトールのような少年もいる。だが、弱気のままではこの旅は乗り切れない。「生き抜く」という揺るぎない信念と決断が、彼らの“明日”を切り拓く。ナチスの兵士が居並ぶ駅で、仲間に「どこへ?」と問われたファニーは言い切る。「前よ」

心身ともに極限状態が続く旅の最中、ジョルジェットは漏らす。「私たちはユダヤ人?悪いことならやめれば」。時に子供たちは、逃亡の最中でもサッカーに興じ、廃屋では無邪気なままごとではしゃぐ。しかし、今やファインダーを覗いても苦い記憶しか想い出せなくなった、そんなファニーの心の支えとなるのが、それまで捨て鉢な態度しか見せなかったヴィクトワールだ。国境越えの厳しさを認識するふたりは、年少の子供たちには打ち明けられない本音を共有する“同志”となる。その絆はヴィクトールにとっても生き延びる勇気を奮い起こすことになるのだ。

そして、ファニーにとって初恋だったろう、レジスタンスに身を投じ、ナチスにとらわれた青年エリーが、彼女に託した一通の手紙。そのゆくえに、監督のローラ・ドワイヨンは、実話を基にした少年少女の生命を賭けた闘いにある種の寓話性を添えて、今を生きる私たちの心をも鷲掴みにする。


●映画ファミリーの才気あふれるサラブレット
時代の歯車に巻き込まれるユダヤ人の子供たちの運命を、無駄のない矢継ぎ早な展開と、夢見がちな少女の逞しい想像力を織り交ぜつつ綴った監督ローラ・ドワイヨンは、『ピストルと少年』『ポネット』で知られる巨匠ジャック・ドワイヨンとフィルム編集者ノエル・ボワッソンとの間に1975年に生まれ、『猫が行方不明』『スパニッシュ・アパートメント』の監督セドリック・クラピッシュと02年に結婚した映画一家のサラブレッドだ。長編3作目となる本作で発揮したたしかな才気を前に、新人子役の脇をしっかり固めるマダム・フォーマン役をクラピッシュ作品でおなじみのセシル・ド・フランスが扮したのは夫妻の人脈のおかげとは、誰も揶揄しないだろう。
(DC CINEMA CLUB PRESS 「LE CINEMA」 2017年7月号 NO.163掲載)


●DATA
Le voyage de Fanny
2016年フランス=ベルギー映画
監督=ローラ・ドワイヨン
出演=レオニー・スーショー、ライアン・ブロディ、ヴィクトール・ムートレ、セシル・ドゥ・フランス
配給=東北新社/STAR CHANNEL
2017年8月11日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー


テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
「少女ファニーと運命の旅」
こういう作品を観るといつも、人として高潔な人物はどこかに必ず存在しているのだ、と思い、そういう人達に対しては厳粛にこうべを垂れる気持ちになる。本作、主役は間違いなく少女ファニーなのであるが、影にそんな高潔な人達が居たことを忘れてはならない。僅かな巡り合わせの違いが、ファニー達のように生き延びることができたのか、収容所送りとなって還らぬ命となってしまったのか、を分けた当時だったのである。1943年。ドイツ軍の軍靴の足音がヨーロッパ中に高く響き渡る頃であった。ユダヤ人が強制収容所に送られていた頃であ... ...続きを見る
ここなつ映画レビュー
2017/08/14 16:57

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
REVIEW 『少女ファニーと運命の旅』  ENTER THE REVIEW/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる