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zoom RSS REVIEW 『君はひとりじゃない』

<<   作成日時 : 2017/06/30 22:48   >>

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「愛する者は、決して病まない」。
アンナはヤヌシュをこう諭すが、彼とオルガ父娘が“病んだ”のは、今は亡き妻を、母を愛しすぎたからだ。その喪失感にとらわれて、遺された父子は互いに慈しむ術を見失ってしまった。

ヤヌシュは検視官という職業柄か、凄惨な現場を目撃した直後も、平然と食事を喉に流し込み、オルガはそんな父への本音を呑み込み、皮肉にも拒食症となる。

アンヌはそんな拒食症の患者たちを大声で“叫”ばせ、憎しみの対象に見立てたサンドバックを叩かせて、彼らの硬直した感情に揺さぶりをかける。父に仮託したサンドバッグをたたくオルガは、普段の無表情とは打って変わって、あふれる涙を躊躇することなく、父に見立てたサンドバックに不満をぶつける。

しかし、そんな患者たちの感情を引き出そうとするアンヌも息子を亡くした後、同居する大型犬の世話に明け暮れ、団地の片隅であけすけな恋人たちの愛の交歓を遠巻きに覗くだけで、実人生の醍醐味からかけ離れて久しい日常生活のようだ。ルーティンのような愛犬との散歩と、ベランダに備え付けられたビニールハウスの植物への水やりが、数少ない彼女の癒しのひとときなのだろう。

そんな平穏な日常で、ヤヌシュと妻の想い出の曲が突然、ステレオから響き、掛けていないはずの部屋の鍵が開かず、栓を閉めたはずの水道の水が勝手に流れ、そしてヒーターは故障し、暖房が効かなくなる。同じ頃、葬儀社からは妻を埋葬した墓地が水道管の破裂で水浸しになり、あらためて埋葬されることになった。それらは死者の彼へのメッセージなのか。一度は、葬った妻の棺を開けて、あらためて遺体の確認をする。妻の死を再確認する作業は、仕事上、幾つもの無惨な死体を目の当たりにしてきたヤヌシュにとっても耐えられない体験だっただろう。そのストレスからなのか、ヤヌシュは夢を見る、“叫ぶ”夢を。ポーカーフェイスの彼も、いつしか胸中に抱えきれない“叫び”を溜め込んでいたのだろう。

ヤヌシュの脳裏に、寝室でおどけて踊る生前の全裸姿の妻が甦るように、死者の気配は俗世の至るところに散らばっている。シュモフスカ監督は、首吊り遺体が平然と歩き出すおとぼけのオープニングに、肉体と魂は別であることとほのめかしながら、その主張を世の中には理性では測れないものがあるだけだと曖昧押し留める。アンヌの“業績”を手放しで絶賛する信奉者がいる一方で、ヤヌシュが“妻と自分しかか知らない”妻からのメッセージを自分が書いたと、オルガが主張するように、彼女の才能の真偽を煙に巻く。

いや、アンヌはそんな相容れない父と娘のまぎれもない霊媒だ。夜を徹して、3人が手を繋いだまま高鼾のアンナに、ふたりは爆笑する。かつて人間らしい温もりに欠け、殺風景な彼らのアパートに穏やかな朝陽が差し込む窓越しの映像に、そのときアンナはいない。死者が現世に甦り、愛する者を見守る古典的ミュージカル「回転木馬」の代表曲“You Never Walk Alone”が、そんな父娘の再生を朗らかに祝福する。


●DATA
Body/Cialo
2015年ポーランド映画
監督=マウゴジャタ・シュモフスカ
出演=ヤヌシュ・ガヨス、マヤ・オスタシェフスカ、ユスティナ・スワラ
配給=シンカ
2017年7月22日よりシネマート新宿ほかにてロードショー

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