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zoom RSS REVIEW 「EUフィルムデーズ 2017」 『ナイトライフ』

<<   作成日時 : 2017/06/27 20:26   >>

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「この国で何かがきちんと明るみに出たことがあったかしら?」。レアの親友ターニャはさらに続ける。「犬より人間のほうが危険よ」。その彼女の言葉さながら、映画もまた深夜の路上に“犬に噛まれた”弁護士の血まみれの身体を突然、露わにした後、幾つもの証拠の周辺で真実は闇の中に葬り去られる。

真夜中のスロヴェニアの首都リュブリャナは冷え冷えとして人間の温もりは微塵も感じられない。サイクリング中の少年たちは救急車を呼ぶ一方、半裸で横たわる彼に「オッサンは寒くないかな」と不謹慎な発言を吐き、野次馬は彼が救助される様を携帯キャメラで撮影する。救急隊や病院の医師たちも患者に対して杓子定規な冷淡さで、警官たちも被害者に対して同情を寄せる素振りも見せない見下した態度だ。

それは事件の異様性とも相通じる。被害者の妻レアは夫が「犬に噛まれた」「ディルドが転がっていた」と事件の真実を明るみに出して欲しくないと、保管所から証拠を奪い、救急隊員に賄賂を渡して、口止めを頼み込む。

その日中、夫ミランは弁護士として“手続き上の事実誤認”を指摘し、極悪人に無罪を勝ち取った。非難する妻に彼はこう言い切る。「人を弁護することが俺の仕事だよ」

事件にはいくつもの謎が秘められている。なぜミランは深夜に家を出て、それを妻はごくありふれた日常のように、平然と送り出したのか。彼はどこに行こうとしていたのか。そして、どのようにして事故に巻き込まれたのか、その動機は裁判の結果に対する何ものかの報復か、それとも彼自身の単なる性的欲望の過剰な欲求ゆえか。

レアは夫の同僚に言う。「誰が知ってるの?あなたはミランの友達でしょ?」。それに対して彼はこう応じる。「きみは彼の妻だ」。取調警官は、自身の妻の愛人の存在を打ち明けた後で、レアに問う。「ご主人の別の一面は?」。人間には他人には窺い知ることのできない意外性に満ちた顔を秘めていても、何の不思議もない。

レアが怖れるのは、真実が明らかになるのと引き換えに、ミランの私生活がマスコミに暴かれることだ。それはミランの“名誉”のためというより、その混乱の中に彼女自身、そして家族が身を置きたくないから隠蔽を画策する。夫は弁護士としてマスコミに追いかけられ、妻は病院の一流医師とのコネを持つ夫妻は、地元では名の知れたセレブリティなのだろう。愛息はイギリスに留学し、その洗練された住まいは、純白のインテリアで統一されて、穢れなく潔癖だ。しかし、警官たちはレアを一瞥して呟く。「あの女も信用ならない」。この社会で恵まれた生活を送るためには、何か心に疚しいことがないと実現しないのかもしれない。そこには真夜中の闇よりも暗い何かが隠されていそうだ。

一夜明け、九死に一生を得たミランの手術成功を聞かされて、なお「何か別の事故に」と誤魔化しを懇願するレアに、手術医は諭す。「大切なことは生きていることでしょう?」

しかし、ベッドの上で身動きもできず横たわる当のミランにとって、一命を取り留めたことは幸福だったのだろうか。複雑な思いを噛みしめるレアの携帯電話に、海外留学中の息子からメールが届く。「試験に合格したよ」
将来に何が待ち受けようとも、人生はこれからも続く。たとえ試練の日々が待っていようとも、人間は生きなくてはならない。幸か不幸か、それが真実を明らかにする日へと繋がっていくのだろう。

この映画で浮かびあがるのは、スキャンダラスに道路に横たわった血まみれの身体、ただそれのみだ。受け取るものによって解釈の異なる事件の理由や原因は、さほど問題ではない。なぜここに存在するのか、なぜこのような状態で転がっているのか、監督のダミアン・コゾレは「何も明るみに出ることがない」祖国の得体の知れない暗部を、この謎に満ちたこの身体を通して揶揄するのだ。これまでの人生を一変させることになるであろう運命の一夜が明けて、夫の無事を確信したレアに眩しい朝日が降り注ぐ。殺風景な夜が明け、輝きに満ちた朝が訪れる。しかしそれは、彼らにとって不都合な真実を明るみにさらけ出す、容赦なく闇を照らす光となるのだ。


●DATA
Nightlife
2016年スロヴェニア=マケドニア=ボスニア・ヘルツェゴヴィナ映画
監督=ダミアン・コゾレ
出演=ピア・ゼムルヴィッチ、ジャルネイ・ザグマン、ミルコ・マンディク

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