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zoom RSS REVIEW 「EUフィルムデーズ 2017」 『いつまでも一緒に』

<<   作成日時 : 2017/06/05 19:27   >>

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娘がトイレに投げ捨てるのは、ジャンクフードだけではない。誰にもぶちまけることのできない両親への不満だ。そんなトイレが詰まり、部屋が汚物まみれの醜態をさらすまでに、そう時間はかからない。

監督のリナ・ルジーテはつねにそんな家族の表情を正面からとらえる。彼らは決して視線を絡めあわせない。そこにもすでに嚙み合わない家族の関係性を観る者に印象付ける。ゴーカートに乗る母娘も、ゴールを目指してコースを走るのみで、互いの運転を遠巻きに察するのみだ。クレジットに役名はなく、それぞれ「夫」「妻」「娘」と記されるのみで、そこからもこれは特殊な家族関係ではなく、ごく平凡なありきたりな物語であることを強調するのだ。

外科医の妻は、友人たちからジョニーと呼ばれる夫がスタントマンの仕事をしているのが気に入らない。「哲学の学位まで取っているのに」と面と向かって不満を露わにするが、それはこの仕事に対する嫌悪感ばかりではない。撮影中の事故で命を失ったのであろう、スタントマン仲間のイーゴリは葬儀で、妻は彼に「あなたの葬儀はしない」と言い放つように、死と背中合わせのその危険を恐れるのだ。それは彼女が間違いなく夫を愛しているからだ。その真情は、妻の我がままとはいえ理解できないこともない。

夫もまた、妻の要望に従って愛娘とともに教会のパイプオルガンのコンサートに出席するが、途中、何度も携帯の呼び出し音を鳴らすように、心ここにあらずなのは明白だ。なぜ事前に電源を切っておかないのかと、私はつい苛立ってしまうが、いよいよ演奏中にメールを読み始めて相好を崩すように、彼はこのコンサートよりも仲間との関係のほうが重要なのだ。彼女の趣味に興味を示さないことに加えて、それが妻に疎外感を抱かせてしまうのだろう。コンサートを中座して、イーゴリの葬儀に出席したところで、そこに居場所を見いだすことができない。妻が仲間たちに見せる親密ささえ、妻にとっては嫉妬の感情だ。しかし、テーブルのグラスを丁寧に拭き直すような神経質な態度は、かえって妻の居心地を悪くさせるのだ。

コンサートに遅れて入場したかと思えば途中退場することに悪びれない彼らに、すでに私は好感を抱けなくなってしまっているが、娘もまた両親に向ける顔とは違う一面を私たちに垣間見させ、ドキリとさせる。バスタブで母に「学校で“尻軽女”と呼ばれている」と告白したかと思えば、両親の帰宅を待つ我が家で、母が用意した食事をトイレに流し込んだり、ジャンクフードを机の中に溜め込んだりと、何やら一筋縄ではいかない癖の持ち主だ。決して両親は、彼女に無関心というわけではない。ただ彼ら自身の夫婦関係そ優先するあまり、娘の感情を慮ることのないエゴイスティックな愛情で彼女を振り回すのだ。

実際に母は、突然、勤務先の病院を無断欠勤し、遠足に出発したばかりの娘を引き連れて、夫の撮影現場に乗り込み、夫のスタントの見学をする。娘は普段とは違う父の佇まいに興奮したに違いない。嬉々として父の付髭を触り、帰宅する頃には、父に抱きかかえられ安らかな寝息を立てるその頬には刀傷の特殊メイクが施されているように、それは得難い体験だったはずだ。しかしそれは母の後先を考えない乱暴な心変わりがあってこそ。娘の“虚言癖”の原因は、そんな気まぐれな両親へのささやなな反抗に他ならない。

母はかつての恋人が経営するゴーカート乗り場に平然と娘を連れていくが、コースでゴーカートに乗っている最中、娘はる “逃亡”してしまう。母は昔の恋人から「ヤブ医者」と罵倒されるが、娘を保護した警察の医師からは「嘘をつくのには理由がある」と診断され、医師を交えた4人で食事をした別れ際に、互いに“ハグ”しあうゲームをする、その何というシュールな光景。どこまでもぎこちなさの拭えない夫婦のハグに苦笑だが、彼らに欠けているのはそんな面と向かった対峙の時だ。「俺に話があるんだろう」と夫は妻に詰め寄ったところで、妻は真実を恐れてか、逃げを打つばかりだ。

ハグの効果もあってか珍しく打ち解けた夜、「教会で結婚したい」という妻に、「きみはプロポーズしなかった」と応じる夫が純白のドレスをプレゼントし、親密な夜を過ごすものの、問題の根源に向きあわない限り、対立の本質は変わらない。「私の仕事は義務」「僕の仕事は娯楽」。アゼルバイジャンでの仕事で3か月留守にすると宣言する夫を自宅から追い出してしまう。

夫への不満を紛らわすかのように、昔の恋人と密会し、怪しいドライヴをする妻が帰宅して目の当たりにするのは、トイレが逆流し、汚物まみれになった部屋の後片付けをする夫の姿だ。娘はポツンとキッチンの上に座っている。夫は出張を取りやめたのだ。

夫と娘を24時間営業の店に送り込み、その後、何とか部屋を掃除したと思いきや、妻が早朝のテレビで目にするのは、その24時間ストアの天井が崩落し、多くの死者が発生しているというニュース速報だ。夫の携帯電話は呼び出し音が鳴るばかりで、応答はない。思わず家から飛び出し、舗道をひた走り、事故現場に向かう彼女が目撃するのは、真実に大切な“何か”だ。

利己主義や他者への身勝手な無関心によって見えなくなってしまったその本質は、愛する人の死の影を実感して、ようやく骨身に沁みる。人気のない駐車場の陰で泣き崩れる彼女が胸に抱くのは、それが失われることの恐怖と、今手にしているはずの幸福のかけがえのなさだ。

三人家族の肖像画が機能不全の彼らを皮肉たっぷりに見下ろすキッチンで、ルジーテ監督は淡々とした日常描写を長回し撮影で連ね、登場人物の誰一人として共感を抱かせない辛辣な作劇の果てに、意表を衝くラストに落とし込む語り口は、若さに似あわぬ痛烈さと、しぶとく物語を引っ張るしたたかさを併せ持ち、その野心満々の底力を侮ることなかれだ。


●DATA
Amzinai kartu (Together For Ever.)
2014年リトアニア=ルーマニア映画
監督=リナ・ルジーテ
出演=ガビージャ・ジャラミネイト、デイニアス・ガヴェノニス、エイラ・グレイビネイト

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